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宇都宮家庭裁判所 昭和51年(少ハ)2号 決定

少年 Z・Y(昭三一・一・二生)

主文

少年を昭和五二年五月二三日まで特別少年院に継続して収容する。

理由

一  本件申請の理由の要旨は、「少年は、窃盗・道路交通法違反保護事件に付き、昭和五〇年七月二四日、宇都宮家庭裁判所に於て、特別少年院送致決定を受け、同月二九日久里浜少年院に収容、同年九月二六日愛知少年院(以下「本院」という)に移送されたもので、同五一年七月二三日を以つて、少年院法一一条一項但書の規定による収容継続期間が満了するところ、同人は同年四月一日処遇段階が一級の下に進級したものの、自己中心的で自主性・積極性・自己抑制力に乏しく、付和雷同的行動をとり易い性格で、そのため後記自動車整備士資格取得のための訓練と併せて個人面接指導・自己指導等強力な矯正教育を施してきたが、同五〇年一二月一一日本院職員に対し暴言を吐き謹慎五日・減点二〇、同五一年六月一五日院内での除草作業中他の少年四名と共謀して逃走し同日連戻され、同月二一日三級に降級・謹慎二〇日の各懲戒処分を受けた如く、矯正教育の効果が未だ十分とは認められないのみならず、抑々少年の本院移送の理由は、少年が過去の怠情で徒遊の性癖生活を改め性来更生するために本院併設の桜蔭自動車整備学校へ入学し、三級自動車整備士資格の取得を自発的に希望したためで、本院移送後少年は同校で所定の教科履習に務めており、前記期間満了を以つて出院させることは、少年の本院移送の初志を断念させ、ひいて同人の将来更生の途を塞ぐ結果となり、また出院後の帰住先である実父母にも少年の監護を期待することは困難で、出院後相当期間保護観察に付する必要がある。よつて少年に対し出院後の保護観察期間を含め、昭和五一年七月二三日以降更に一ヶ年の収容継続決定を求めるため本申請に及んだ。」というにある。

二  よつて本件一件記録、調査並びに審判の結果により、次の通り判断する。

少年は。昭和四七年一〇月二三日当庁に於て道路交通法違反・傷害・窃盗・恐喝未遂保護事件に付き中等少年院送致決定を受け、同月二七日多摩少年院に収容され、同四九年八月二日同院を仮退院した。そして右仮退院後の保護観察中に犯した窃盗(七件)・道路交通法違反保護事件に付き当庁に於て同五〇年七月二四日特別少年院送致決定を受け、同月二九日久里浜少年院に収容され、同年九月二六日本院に移送されたものであつて、本院移送の理由は本申請の通りである。しかして少年は同五一年七月二三日を以つて少年院法一一条一項但書の収容継続期間が満了する。

少年の性格、行動面での問題点は本申請の指摘する通りであつて、本院移送・理由が少年の自発的な意思による自動車整備士資格の取得にあること、後記右資格取得のための教科履習状況等からすれば、少年自身に於て自己改善の意欲が芽ばえ、或程度性格の矯正がなされたともいい得るが、他方では本院に於て、昭和五〇年一二月一一日言動を注意した職員に暴言を吐いて謹慎五日、減点二〇の、同年五月一五日にも同様のことで院長訓戒、減点二〇の各懲戒処分を受けたのみならず、同年六月一五日院内での除草作業中他の少年四名としめし合せて逃走し、同日連戻されるという事故を惹起したことにより、同月二一日三級に降級、謹慎二〇日の懲戒処分を受けたものであることに鑑みれば、未だ少年の右性格、行動面での問題点が払拭されたものとはいい難く、同年七月二三日少年院法一一条一項但書の収容継続期間満了後も引続き本院に於ける矯正教育を受けさせる必要があるものというべく、しかして今後少年の処遇段階が一級の上となるのは通常では同五二年四月一日とみられること、少年の本院移送の理由が前記の通りで現在に至るも三級自動車整備士資格の取得の希望を有しており、他に特別の技術を身に付けていないことからすれば、この際少年に右資格を取得させることは、将来の更生のためには極めて有用であることは多言を用しないところ、少年は本院移送後併設の桜蔭自動車学校に入校以来同五一年秋に行なわれる三級整備士資格取得のための国家試験(従来の本院生の合格率は九〇%、少年の予想合格率は七〇~八〇%)を目差して同校での所定の教科の履習に励んできたが、前記逃走事故による懲戒処分を受けたことになり右国家試験までに同校での所定の教科の履習完了が困難となり、次回同五二年春(遅くとも四月上旬)の試験を待さざるを得ないこと等を併せ考えれば、少なくとも同五二年四月上旬まで引続き本院に収容して右自動車整備士資格を取得させると共に、これと併せて本申請の指摘する各種矯正教育を施す必要があるというべきであり、併せて帰住先についても、少年は本籍地の実父母の許を予定しているが、少年の従前の生活歴・非行歴、性格等に照らしても今直ちに保護者に少年の十分な監護を期待することは困難であること、本院での矯正教育・効果の維持・向上殊に前記自動車整備士資格を生かすための就職等出院後の新環境への定住を図るため出院後相当期間保護観察に付し、更生援護の手を施す必要があること、その他諸般の事情を綜合するときは、出院後の保護観察期間をも考慮して少年を少年院法一一条一項但書の期間満了後尚昭和五二年五月二三日まで引続き本院に収容するのを相当と認める。

よつて少年院法一一条二項四項を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 桜井登美雄)

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